TAC19%削減報道と資源評価資料を読んで感じたこと
日本海A海域のズワイガニTACが19%削減されるというニュースに対して、SNSでは
水産庁
「資源保護のためにズワイガニの漁獲枠を3,700tから3,000tに減らします」
に対して
「ここ5年くらい2,000tしかとれていないのに3,000tの漁獲枠なんて意味をなしていない!」
「雌がにの禁漁は世界資源管理のスタンダードだ。雌がにを獲るからこうなる」
という反応が見られた。このように資源管理に対して関心を持つ人が増えてくれたことは非常に嬉しいです。
でも、実際に資源評価報告書を読むと、今回のTAC削減の意味を日本の資源管理の甘さとして語るのは少し違和感がある。
少なくとも今回の話題の発端となった日本海A海域については、十分な親魚量は存在しているとの資源評価が公開されている。
むしろ今回は、
「現在の親魚量」ではなく「加入量低下予測」
に対して、かなり早い段階で管理を入れており、日本の資源管理対象魚種の中ではかなり未来を見据えた良い資源管理の制度運用となったと思う。
まず、「漁獲量」と「資源量」は違う
SNSではよく、
「昔より漁獲量が減った」
↓
「だから資源が減った」
という論調が見られる。
でも、水産資源学的には、漁獲量推移だけを見ても資源状態は判断できません。
当然ながら、
- TAC削減
- 操業隻数減少
- 需要の低下
- 出漁日数減少
- 保護区設定
- 小型個体保護
などによって、漁獲量はいくらでも下がります。
実際、ズワイガニでは海域によって極端なレベルで漁獲努力量が減少しているんです。
例えばズワイガニオホーツク海南部系群では、1993年漁期には、
- オッタートロール:6,033網
- かけまわし:9,667網
という非常に高い有漁網数で操業されていたんですが、その後努力量は急減し、
2023年漁期には
- オッタートロール:12網
- かけまわし:0網
まで低下している。
つまり、「資源がいないから獲れない」という以前に、そもそも漁獲努力そのものが歴史的低水準まで縮小している。
ズワイガニ太平洋北部系群でも同様である。
1997〜2002年漁期には年間約2,000網、2003年や2008〜2009年漁期には3,600網規模で操業されていた。
しかし2011年漁期には東日本大震災の影響で0網となり、その後も福島県船による試験操業・拡大操業は再開されたものの、
2012〜2019年漁期:約50網前後
2020〜2022年漁期:103〜241網
2023年漁期:27網
と、震災前とは比較にならないほど低い水準で推移している。
さらに2023年漁期には、震災前の主漁場であった常磐海区での漁獲自体が確認されていない。
つまり、漁場利用構造そのものが大きく変化している。
北海道西部海域も同様である。
1986年漁期には約2.6万カゴだった漁獲努力量は長期的に減少し、2024年漁期には960カゴまで低下した。
操業隻数も、
- 1999年以前:5隻
- 2009年以降:1〜3隻
まで減少している。
日本海系群B海域でも、漁獲努力量そのものは長期的に大きく減少している。
主要漁業である沖底・小底(かけまわし)の操業隻数は年々減少し、2000年代にはピーク時の約1/4となる170隻前後まで縮小した。2007年以降は未集計であるものの、安定もしくはさらに減少していると推察されている。
また、網数ベースで見ても漁獲努力量の低下は明確です。1979年には約22万回だった年間網数は、2024年には一部未集計を含むとはいえ、約2.4万回まで減少しています。

引用:飯田真也・白川北斗・佐藤信彦・内藤大河・佐久間啓 (2026) 令和7(2025)年度ズワイガニ日本海系群 B 海域の資源評価. 水産庁・水産研究・教育機構, 東京, 13p,https://abchan.fra.go.jp/wpt/wp-content/uploads/2026/03/details_2025_16.pdf
つまり日本海系群B海域では、操業隻数・網数減少・漁獲努力量が長期的に継続している。
それにもかかわらず、資源量は目標管理基準値を大きく上回る水準にある。
少なくとも、「日本はズワイガニを獲り尽くしている」という単純な構図では説明できず、漁獲量だけで資源状態を判断する危険性を示していると思う。
つまり近年の漁獲量減少については、「資源が減った」だけではなく、複数要因を同時に考える必要がある。
A海域で本当に起きていること
資源評価資料を見ると、日本海A海域では親魚量(SB)は依然として比較的高い水準にある。
一方で問題になっているのは、「加入前資源の減少」である。
ズワイガニは、孵化から漁獲加入(雄:11 齢、雌:10 齢)までは7~8 年かかるとされているが、
7~8年前には十分な親魚量が存在していたにもかかわらず、
そこから生まれてくるはずの稚ガニが少ない。
この構図がかなり重要だと思う。
もし現在の資源減少の主要因が「雌ガニの獲り過ぎ」であるなら、
- 親魚量減少
↓ - 加入量減少
という流れになるはずである。
しかし実際には、
「親魚量はあるのに加入が弱い」
という推定結果になっている。
つまり少なくとも来年以降予測されている資源減少については、
雌ガニ漁獲よりも、
再生産成功率そのものの低下が強く影響している可能性が高い。
雌ガニ漁獲をゼロにすれば解決するのか?
もちろん、雌ガニ漁獲が資源へ影響を与えないとは思っていない。
ただ、少なくともA海域については、
「雌を獲っているから資源が減る」
というほど単純な構造には見えない。
そもそもA海域では、
11月6日〜12月末まで以外は基本禁漁
というかなり強い漁獲制限が既に入っている。
さらに、
- 漁期制限
- 漁具制限
- サイズ制限
- TAC管理
まで実施されている。
これでもなお「全然足りない」というのであれば、
どの水準まで漁獲を落とせば適切なのか、かなり明確な説明が必要になる。
雌ガニを獲らない海域は、本当に“理想的”なのか
個人的に以前から気になっているのが、
「雌ガニを獲らない=理想的管理」
として扱われる風潮である。
確かに再生産保護という意味では合理性はある。
しかし一方で、資源評価上は問題もある。
ズワイガニのような長寿命種では、
- 再生産関係
- コホート解析
- 加入推定
などにおいて、漁獲データが極めて重要になる。
雌の漁獲データが存在しない場合、
解析の不確実性はかなり大きくなる。
当然、調査船調査などで補完は可能だが、
商業漁獲データが持つ情報量は依然として大きい。
「獲らない方が正しい」
という価値判断だけではなく、
「どの程度の情報欠損を許容するのか」
も本来は議論されるべきだと思う。
今回のTAC削減は、むしろ“かなり優秀”な管理に見える
個人的には今回のTAC削減について、
「資源が崩壊したから慌てて止めた」
というより、
「加入低下予測が出た段階で先に抑えた」
という意味で、かなり予防的管理に近いと感じている。
日本の水産行政はこれまで、
「減ってから対応する」
ケースが非常に多かった。
その中で今回は、
“将来減る予測だから先に削減する”
という動きになっている。
これはむしろ評価されるべき点ではないだろうか。
本当に議論すべきなのは「再生産がなぜ失敗しているのか」
今回の資源評価資料を読んでいて、本当に重要だと感じたのはここである。
親魚量があるにもかかわらず加入が弱いのであれば、
問題は単純な親魚不足ではない。
- 海洋環境変化
- 水温
- 幼生生残
- 餌環境
- 底層環境
- 輸送過程
など、初期生活史段階の問題を疑う必要がある。
実際、近年は多くの魚種で、
「親はいるのに加入しない」
現象が増えている。
だから今回のズワイガニ問題も、
「雌を獲る悪い漁業者」
という単純な話ではなく、
“再生産環境そのものが変化している可能性”
として見るべきなのではないかと思う。
漁獲量推移だけで海を語る時代は、もう終わりつつあるのかもしれない。

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