自己紹介をお願いします!

阿武町の奈古漁港で定置網の乗組員をしながら、ウニの蓄養をしている福本真司です。
出身が東京海洋大学で当時は海藻の研究をしていたのですが、家系が医療関係だったのもあり、しばらくは理学療法士として働いていました。45歳になったのを機にまた海の仕事をしたいという事で漁師になって、今は半農半漁の生活をしています。
幼少期ってどんな子供でしたか??
幼少期からやっぱり生き物が大好きで、なんでも好きだったけど、特に両生類が好きだったな。

両生類!?何が好きだったんですか??

イモリが好きだった!生まれは神戸だったけど、すぐ引っ越したからほぼ宝塚育ちで、山を切り開いたちょっといいところの新興住宅街に住んでたんだよね。だから、家の周りに意外とイモリがいなくて、そういう里山の風景がすごい憧れだったんだよ。一回小学校の誕生日プレゼントにイモリをもらったこともあるんだよ。それを許してくれた親もすごいけど(笑)
新潟に鯨波っていう砂浜があるねんけど、母方の実家が新潟やったから毎年夏よく行ってて、そこでも海の魅力にハマったんだよね。
経歴を教えてください。
大学は東京海洋大学に行って、海藻の研究をしていました。でも、どちらかというと培養メインだったんだよね、性格的にはフィールドに出る方があってたと思うけど、先生と出会って誘われてラボにこもってて。ちょっとその時熱量は下がってたかも。

大学院も行ったけど、外で人と会って海入ってみたいな大学生活をしていれば、もしかしたら、理学療士にならなかったかもしれない。でも、デスクワークで海に対する熱が冷めちゃって、家が、医療一家で、「お前の性格やったら、理学療法士がいいよ」とおじさんの勧めもあって、理学療法士になったんだよね。

周りの影響ってでかいですよね。
そう、あとはいろんなところに住んでみたい。でも、各地で仕事を1から覚えるのは嫌で、積み重ねてキャリアップできる仕事が良くて、どこでも同じ仕事ができる雇われの理学療法士になったんだよね。それで石垣島に住んで、プライベートで海で遊んでた頃もあったけど、でもやっぱり、平日は仕事に捧げて、土日は海という生活を反対にしたいなと思ったんだ。


どれくらい理学療法士やってたんですか ?
13年くらいかな。で、そのあとすぐに漁師になって2年前から漁師をやってる。
どんな漁をされているんですか?

今は朝5時くらいから定置網起こすために沖に出るんだけど、9〜10時くらいには漁が終わって、そのあと時間と体力があれば海士漁にも出るって感じ。時期によってはアカモクを獲ったり、ウニの世話をしたりするよ。

大体何月から何月まで何をメインで漁をしているんですか?
そうやね、それは今から作っていくんやけど、今考えてるのは、3〜5月あたりでアカモク、 4月中旬から蓄養用のウニを獲って、4~7月でウニを育てて出荷。夏は海士漁がメインで魚突きもするかな。

定置網って網入れない時期はあるんですか?
ずっと入れてるよ、禁漁は年間15日だけ。でも禁漁期も網仕事があるから休みはないかな。
漁師になった最初の一歩は何でしたか。
県主催の漁師フェアやね。最初は漁師.jp主催の「漁業就業支援フェアin大阪」に行ったんだよね。その中で徳島とか長崎とか淡水のビワマスもいいなと思って琵琶湖も考えたんだよ。いくつか候補はあったけど、たまたま山口県が主催するフェアが近かったから行ってみたら、阿武町で魅力的な仕事を見つけたから移住したって流れかな。
漁師.jpは、これから漁師を目指す方、
漁業に興味のある方など
漁業への就業を考えている方に向けて
発信をしています。
水産庁、全国の都道府県、地域の漁協等と
連携をとり、新たな漁業の担い手を
確保・育成することを目的とし活動している
日本唯一の組織です。
定置網漁を選んだ理由ってありますか?
定置の仕事は5:00〜10:00とかでめっちゃ短くて、俺は体力めっちゃある方だから、ちゃちゃっと定置の仕事終わらせたら他のやりたいことめっちゃできるし、昼夜逆転の生活ならへんやん?それがめっちゃいいやんって。
あとは、定置網って何が入ってるかわからん楽しみあるやん? 1種類だけ獲る漁はあんまり好きじゃなくて。今日何が入ってるやろみたいな。だから、瀬戸内の小型底曳き網もちょっと魅力的やってん。でも、 定置網の方が海に優しいイメージもあってこっちかなってなったんだよね。

特にこの業界に入ったばかりの時は漁法のイメージとかってありますよね。入って色んな漁法を知ってしまえばそれぞれのメリットデメリットがあるから比べられなくなってくるけど。
あとはね、1本釣りもかっこいいなって思ったよね。 1尾1尾ちゃんと手当てもできるし、あれは技術とかテクニックとか勘とか、そういう総合的な要素が含まれて釣果につながるやん。自分のスキルアップっていう部分にすごく直結してきて、それが水揚額とかに大きく反映されるところがすごい魅力的やなと思う。

俺性格的に1人でやるのが向いてんだよね、「ああやったら、もっと上手くいくかな」っていうの、すぐ実践したいタイプやねん。定置とかのチームやったら、なかなかこうやなって思っててもすぐ実践できなくてただの作業員になっちゃうから面白くなくて、 1本釣りとかやったらすぐ反映させられるから魅力的やね。

ここら辺の延縄とか一本釣りはバリバリやりますからね。他の地域よりも結構ハードだなって思います。
漁業権は県のプログラムで取れるんですか ?

漁業権は研修が終わってから、年間にどれくらい出漁しているか、などの条件を満たした上で運営委員で協議をして、地域や組合の許可が得られれば漁業権を取得できるよ。
まあ普通に平日働いたら条件は十分達成できるから、あとはもう人柄で「もうこいつは大丈夫」ってなれば、基本的に蹴られない。浜で仕事してる人で、継続してある程度仕事できる人だったら、そこで蹴られることはまずないかな。
阿部町の好きなところはどんなところですか?
この規模感がちょうどいいんだよ。ある程度町の人の顔が分かるくらいの小規模。かといってめちゃくちゃ廃れてるわけでもないこの規模感がよくて、それがまず魅力的かな。あとは、比較的やっぱ受け入れ体制がいいかな。
阿部町の素晴らしいところは、この町が掲げている基本理念が「森里海と生きる街」っていうところかな。そういうまちづくりが自分の理念と一致してて、めちゃくちゃ動きやすい!
ほとんどの他の町って何かこう1つのものにこだわったり特化しがちだと思うんだよね。

日本一とか世界一とかそういう事業に行政って飛びつきがちですよね。でもそれだとどこかに皺寄せが起きることもあるし、その資源が枯渇した時のリスクが大きいですよね。
なんかそういうのとは違って、共生や共存・自然の中で人がどう立ち回っていくかみたいなところに重点を置かれてるのが素敵なんだよね。
ただの自然保護じゃなくて、人の活動ありきの自然保護なんだよ。これって真似しようと思っても簡単にはできないんだよね。これが森里海の循環で、財政として黒字が出来たら、世界的に認められる街になると本気でおもってる。それを俺は目指してるんだ。
山との共存みたいな部分で阿武町の特徴ってありますか?
阿武町の自然のパワーって結構すごくて、ほんまに国道沿いのあんな浅い所で、150キロのマグロが入るし、クエも入るし。なかなかこんなとこってないと思ってて。
定置網を張ってるところの水深が大体 30mぐらいかな。冬になったら国道から数十メートルのところにマダラが入ったりするんだよ。

え!?タラが!?阿武町でタラも取れるんですか??
カガミダイっていう深海魚も入るんだよね。深いところは200mくらいになるんだけど、海底に阿武火山群っていうのがあって、それによって造られた瀬に潮がぶつかったりすることで深海の魚も海水の流れに乗って獲れるんじゃ無いかなと思うけど。
カガミダイ、値段は付かないね。俺も食べたことないけど。マトウダイみたいなものなのかな。

マトウダイは島根の浜田で刺身で食べたことがあるんですけど美味しかったですよ!それこそ「千代丸食堂」みたいな地元のお店とかで食べられると嬉しいですよね!
そうだね、アイゴとかもね、俺めっちゃ好きなんやけどほぼ捨てちゃってるんだよね。アイゴみたいな未利用魚とかって言われるような魚は大漁するような魚ではないから地元で消費したいよね。

阿武産直・千代丸食堂
住所 山口県阿武郡阿武町奈古2249
定休日 毎週水曜日 ※祝日営業・翌日休業
営業時間 モーニング 8:30〜(LO:9:30)
ランチ 11:00〜15:00
※夜営業は要予約
アイゴはどうやって食べるのが好きですか??
刺身が好き!

へぇ!刺身??アイゴの刺身は食べたことないかもしれないです。でも、生ハムとか燻製とか、魚卵の旨煮、白子ポン酢を食べたことがあって、どれもめっちゃ美味しかったですよ!
美味しいよね。結構新鮮なアイゴをすぐ血抜きしたら臭くないし、お腹の部分がめっちゃ好きです。ねっとりとコリコリの間みたいなサクサクした感じの食感がなんとも言えず好きで、マダイよりも好きよ!
若い人たちに“漁師の魅力”を伝えるとしたら、なんて言いますか?
漁師の魅力はやっぱり自分の技術や工夫次第で、魚を獲って価値を上げて利益を最大化できるところだと思ってる。俺は元々勤め人だったから固定給でもらってたけど、それに対して試行錯誤の中で実践し、それが形になるというのが好きな人にとってはたまらん仕事だと思う。
そういうの好きな人って、雇われが多分ストレスになると思うんだよね。もっとこうやったら効率いいのにとか思いながら悶々と働くより断然楽しいよ!

上司とかに責任がある仕事だと提案しても通らないことが多いし、自分の責任下でやりたいことやれると楽しいですよね!
そうね!あと、体も使うから健康的だよね。筋トレとかしなくても筋肉つくし。ジムとか通う必要もないしさ。あと自然に触れるから、海の香りとか海水に触れたりするだけで、みんな元気になるんじゃないかとも思うね。
理学療法士だったからさ、こっちの生活自体がリハビリみたいなもんで、自然の中での仕事はそれだけでストレス解消になると思う。「日が暮れてきたしもうそろそろ終わるか〜」とか、「今日は酒飲みたいし疲れたから早めに休むか〜」とか、時間とかも自分のさじ加減で決められるのも最高やね。
今最も力を入れている活動はなんですか??
そうだね、今はウニを育てながら持続可能な漁業のスタイルを作ることが直近の目標かな。ウニを作るのもそうだし、これからやる海藻養殖もそうだし、低利用資源の利用もそうだし。年間で少しずついろんなものを獲るスタイルを作ることかな。
ウニの蓄養について教えてください

基本的に阿武町にはウニ漁師は 1人もいなくて、海の中はウニだらけなんだよね。磯焼けの原因になってるから補助金で駆除の対象になってるんだけど、そのウニを何か利用できないかということで蓄養を始めたんだよ。
ウニが商品価値としてあった頃の時代に作られた禁漁期が、ゴールデンウィーク明けから12月20日まであって、その制度がそのまま残っていながら、補助金でウニを駆除してるんだよね。保護しながら駆除するっていう、矛盾が生じているんだよ。矛盾が極力生じないように時代に合った制度運用についても、これから提言していきたいかな。
漁師同士で喋ってたら普通に考えておかしいルールがあっても「まあ、そのルールやからなあ」ってなるんだよね。第3者に「禁漁してる期間に駆除って何やってんの?」っていう意見を言ってもらって初めて議論ができるんだよね。いち漁業者として、役所に話しても門前払いだし、大衆の意見を伺うからメディア露出も増やしながらアプローチを狙ってる。

敵を作っても楽しくないんだよね。ライフワークとして楽しく生きたいっていうのがあって。まあ、人生なんか暇つぶしみたいなものやから、喧嘩せずにうまく立ち回ってなんとか変えられるように考えたいって思うね。
ビックニュースにはなれなくてもわかる人に賞賛されて、すごく緩やかなコミュニティの中で楽しく、「あの時、これやっていて良かったなー」って思える活動をしていきたいね。
山ではどんなことをやってるんですか?
阿武町は今、自伐型林業って言って間伐をほったらかしにしていたんだけど、それを利用する取り組みを始めたんだよね。今後はそれを黒字化したいんだよね。
森に光を入れるために木は定期的に切らんとダメなんよね。切った間伐材を利用して生産性の高い森を作りながら黒字にすることでもっと積極的に木を切ることができると思ってて、切った木を利用して利益を出せる事業を作っていきたいかな。

琵琶湖周辺では、クヌギの原木を使った椎茸栽培が行われていて、そういった活動自体が山を豊かにするし、生物の多様性の確保にも繋がるよね。クヌギは備長炭の原料としても利用されているし、そういったことを阿武町でもやっていきたいね。
他にも、とうもろこしとかで作られた配合飼料とかじゃなくて、完全に草だけで育てる「無角和牛」って言う赤みの肉をブランディングしていく活動もやってんねん。
あとは、阿武町の山の木を管理して出た間伐材を、道の駅の日本海温泉「鹿島の湯」を沸かすために利用する、木の駅プロジェクトとかもやってるんだよね。そういった森里海の資源を循環させて黒字の事業を作ることを自分のライフワークとしてやっていきたいね。

日本海温泉「鹿島の湯」
住所 山口県阿武郡阿武町奈古2249
定休日 毎週水曜日 および 年末年始
営業時間 月・火・木・金 10:00~21:00
土 10:00~22:00 日 9:00~21:00
※GW、お盆、年末年始の期間は除きます。

ゴミ拾いをしていると魚箱なんかも結構落ちているんですよね。今はプラスチック化されてきてる魚箱も昔は木で造られてたし、使い勝手の良し悪しはあると思いますが検討し直してみてほしいですね!
あとは、間伐材を沈めるタイプの魚礁に利用している取り組みもあるんだよね。山の方は全然形にはなっていないけどこれからやっていきたいな。

福本さんは家の前で無農薬の畑も作ってたりしてますよね。

そうだね!あと、こっちの木を切って自分で薪ストーブにしたりもしてる。小規模には実現してるんだけど、それを商業ベースで大規模にやっていかないと意味ないよね。でもまずは自分の体感も必要だし、小規模から循環型の生活を少しずつ構築していきたいね。
地域おこしや観光とのコラボ、何か面白いことやってますか?
木の駅プロジェクトの一環で、道の駅のキャンプ場で元地域おこし協力隊の方が子供達対象に薪割り体験や、木の枝にフォークをつけて焼くフォーキング体験っていうのもやってるよ。
今までで最も苦労したことはなんですか?
漁師としてだと、定置網の人間関係がしんどかったかなぁ。本当にやめようと思ったからね。でも今は、自分の会社以外の漁師仲間にも認めてもらえるようになって気が楽になったかな。

漁師やろうと思っても人間性って大事ですよね。
若いうちは若さも利用してどんどん愛されるキャラになった方がいいと思うよね。俺はもうおっさんやから、愛されキャラよりもちょっといじられキャラを入れて行ったほうがいいかなぁ〜年齢的に(笑)
移住するにあたって軋轢やしがらみはありませんでしたか?
ローカルルールはすごいあって、例えば、道の駅で今回アカモクを販売することになってんけど、基本、法人じゃないと販売できなくて個人で販売したのは俺が初めてなんだよね。それも許可をもらって、アカモクと養殖ウニに限って出荷を認める許可をもらってしっかりやってるけど、地元のおじいちゃんは昔は道の駅にワカメを出荷してたみたいなんだよね。明文化されてないルールもあるんだろうね。
ただそれにはいいところもあって、勝手に何かする新人を村社会で厳しめに相互監視することで、ある程度資源が保護されてきたっていうのも、あるんじゃないかなって思う。

漁業権は、まさにそれですからね。
うん。軋轢とかしがらみとかもあるけれども、これは何か解決するべきものではなくて、その中で上手く立ち回っていくのが正解なんだなって。
漁師としての福本さんのビジョンはなんですか??

森里海を適切な管理で生産性の高い状態に維持し、その恵みをエネルギー、食糧、お金に変える循環型の仕組みを作りたいね。森里海と生きる町阿武町で、未利用の水産資源を開拓して有効に使いながら守っていく、そういった漁業のスタイルを作っていきたい。
1年間を通していろんなものを獲るっていう持続可能な生活スタイルや、ある資源の価値を最大化して利用していく過程をもっとたくさんの人に見てもらって、漁業をもっと身近なものに感じてもらいたいですね。
ビジョンを叶えるために次はどのようなことに挑戦したいですか?
そうやねー🤔海藻養殖によって稚魚の育成場を保全して資源回復が出来ればいろんな漁師も応援してくれるだろうし、そこでシュノーケリングツアーみたいなのをして、「海藻養殖ってこんな魚を呼び寄せるんや」って実感してまらう体験ツアーとかもやりたいですね!
まとめ
今回は阿武町で定置網漁業や海士をしている福本さんにお話をお聞きしました!新米漁師だからこそ記憶に新しい水産業界に対する疑問や独特のしがらみについてディープなお話を聞かせていただきました!
是非、阿武町に遊びに行った際は、「道の駅阿武町」や隣接する「千代丸食堂」で海の幸を堪能してください!
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