知床半島と根室半島の間にある標津町(しべつちょう)は、ポー川や標津川から栄養豊富な水が流れ込む根室海峡に面しています。町名はアイヌ語の「si-pet(大きな川)」に由来し、過去には秋鮭の水揚げ日本一の記録も有し、「鮭の聖地」として知られています。
今回訪れた波心会は、「海の豊かさ、魚の命を後世に繋ぐ」という理念のもと、多種多様な漁法で魚を獲り自分たちで加工、販売をしています。第1回目の取材は波心会代表の林強徳(つよのり)さんに、ご自身の生い立ちから海と魚に対する想いについてお話を伺いました。
自己紹介をお願いします。

北海道標津町で小漁師をしている林強徳(つよのり)です。生まれは青森で、幼少期は半年青森、半年標津町という暮らしていました。漁師としては2代目で、小学1年生くらいから漁師の親父を見て漁師になりたいと思いました。
長男だったから後を継ぐとはずっと思ってたけど、漁師やりたいと思ったのは、小学校1年生の時の課外授業で親父が漁師している姿をみてかっこいいと思ったのがきっかけですね。それまではウルトラマンセブンになるのが夢でした(笑)

お父さんが漁をしている姿がかっこよかったんですね!
そうだね。カッコよかった。単純に「かっこいい」の一言で、心を奪われてしまったんだよね。ジィジもこっちで漁師・船頭さんをやってて、親父のかっこよさやジィジの優しさに触れて漁師を目指したんだよね。
いくつくらいの時に標津町にきたんですか?

こっちに年中住むようになったのは小学生くらいだったと思う。親父の兄貴は青森でホタテ養殖や刺網、つぶ籠をやっていて、ジジも青森で漁師や山子をやってた人だったから、それまでは青森と標津を行ったり来たりしていました。
林さんの生い立ちを教えてください。
俺は昔から優しくて、頭よくて、、、

あの、本当のこと喋ってもらっていいですか??WW
幼少期の遊び相手は自然だったかな。鹿を追っかけたり、野良犬退治に出かけたり。幼少期から死の恐怖を味わいながらも色々、自然と戯れて遊んでたかな。海や川を泳ぐのは当たり前で、やすで魚をついて焼いて食ったりとか本当に原始的な遊びをしてました。


林さんって「棒」好きですよね。
棒好き好き!私は狩猟民族なので、やっぱり何かをみたら持ちたくなる。この道具をこういうふうに使ったらいいんじゃないかなとか。そこから何か発想が生まれるかもしれないし。
波心会を立ち上げた経緯を教えてください。
クロガレイだね。クロガレイが安く扱われることに対して本当に納得いかなくて、だからいいカレイを水揚げするために考えたよ。網から速くはずすために人件費もかけたし網の目も大きくしたし、小さいカレイは網あげたらすぐ逃したりもした。当時は1日に4〜5本の網を入れていたんだけど、できるだけ早くカレイを網から外すために、網を1本巻いたら他の船の邪魔にならないように岡に下がって網から外すようにもした。
でも値段は全く変わらなくて、あまりの苛立ちに、「仲買たちもぶっ殺してやる!」って思うくらいだった。「なんでこんな金額で買われなきゃいけないんだ!」って市場に文句言いに行ったりもした。けど、こんなことを人にいう前に自分でやろうと立ち上げたのが波心会です。

一緒に沖に行ったら、「小さいカレイは逃して!」ってつよさんは言うけど、これ以上成長しないくらいの大きいカレイ以外は全部逃がしていて、すごいカレイに対する想いを感じました。
カレイの単価はどれくらい上がりましたか?

カレイは、これ以上獲らなくても自分たちが生活できる水準も考慮して、消費者が食べやすい値段や飲食店の方々が使いやすい値段で相場を決めて自分で売ってます。それは親父がやっていた頃と同じ300〜800円/kgの相場で十分だと思うんだよね。
市場にはクロガレイは出していないんですか?
安くしか評価されない魚を市場に出す必要はないのかなと思っていて。クロガレイは浜値5〜80円の価値しかない魚じゃないんだよね。ちっちゃい魚や痩せこけた魚も出してしまうと仲買さんたちも扱いにくいだろうし、そんな魚を出荷してしまうのも俺ら漁師の悪いところ。
どうしても魚卵を食べる文化が日本にはあるじゃない?だから産卵後の痩せた魚は回復させてから獲るとか、漁師がちゃんと選別するべきだと思う。でも、それをいいことにいいカレイまで安く買い叩く仲買もどうかとおもう。

仲買さんが 「この魚はこう言う状態だから使えないよ」って言ってくれれば、「それだったら俺ら沖で選別してくるよ」って言えるし。仲買さんも漁師も寄り添って会話を増やすべき。本当は漁師もそれを指摘されなくてもやるべきなんだけど、それも出来ていない今の水産業界はどうなのかなって思います。
俺が小さい時に親父の刺網に乗っていた時に、「いい魚外す前に小さい魚を外して逃がせ」ってずっと言われてきたの。今でもそれは継続している。「お前そんなちっさい魚殺したら、来年再来年も魚がかかる訳ねぇべや」って親父が教えてくれました。
ただ魚を無駄に殺して出荷して、安値をつけられてこんな負のループをいつまで続けるのかなって。こんな単純なことがなんで今の水産業界にはできないんだろうって思う。
色々取り組みをする中でしがらみとかってありましたか?

しがらみなんて新しいことやるってなったら当然出てくることじゃん。そんなことにいちいち悩んでたら前に進めないし、そんなの全てクリアする気持ちでやってるから、批判があれば「あ。この順番を間違えたからこう言われたんだ。じゃあ今度は順番間違えずにやろう!」って全ての批判を糧にしてる。
逆に陰で文句言う奴らがいたら直接電話かける。直接言う度胸も無い奴に海と魚のことなんて語ってほしくないね。海って真っ向からぶつかってきてくれるから。俺たちも真っ向からぶつかっていかなきゃいけない。陰でこそこそ言うだけの奴なんて所詮その程度だと思う。
年間を通した漁のスケジュールを教えてください。
1月底建て網、2月は流氷とトド被害が大きいから網の修繕などの陸仕事。流氷がなくなる3月後半からニシン刺網、4月入ったらニシン刺網と小定置と今年から底建網。本当はつぶ籠もできるけど、つぶ貝は今資源が少ないからやらない。

5月はニシンの刺網と小定置・底建網をやめて、5月後半から6月まで籠でクリガニを獲ります。7月もクリガニは獲れるんだけどそれは波心会の仲間に任せて、俺はエビを獲る。去年の8〜11月は定置のアルバイトをしていました。でも、今は定置の漁のあり方とか人間関係に飽き飽きしていて、今年も定置に乗るかは迷っているかな。9から12月はタコ箱、11月の後半から底建てといった感じかな。

すごいいろんな漁法をされてるんですね!
新しい漁法を始めるときのハードルはありますか?
やっぱり一番のハードルはお金だよね。海のいいところでもあるんだけど、新しい魚種って今年来ても来年取れるかわからないじゃん?でもやるしかないから、それをどうやって手に入れるかじゃない?新品を買うのか、自分で繋がりを作って、頭を下げて作り方を教わって材料揃えて自分で作るのか。

今の世の中は何でも作ってもらえるけど、昔はそうじゃなかったじゃん。やっぱり自分で作ることでものを大事にすることもできるし、自分で行動に起こしてやるということが、海の変化に合わせて魚を獲るということに一番近づけるんじゃないかな。
林さんの思う標津町の浜の課題って何ですか?
たくさんあるけど、お金を指標にしすぎているところじゃないかな。標津だけでなくて、全国の一つの大きな課題になっていると思う。既得権益もそうだし、言っちゃいけない場面もあって議論すらできないこともあるじゃん。
本当にありがたい話、こういうふうに思えるようになったのは色々活動しはじめて、いろんな立場の人と出会って話を聞いて、自分の考えのちっぽけさだったりとか、自分の考えの甘さに気づけたのが大きいですね。

その中でも俺が特に印象的だったのは、野崎さんっていう映画の監督さんと、ヨーロッパでシェフをやっていた石井さんです。この人たちの感性や感覚というのは本当に素晴らしくて、見る世界の壮大さが話を聞いていてひしひしと伝わってきました。本当に出会えて色々話を聞かせてもらえてよかったなと思います。
海と魚のために、そういう人たちの意見をこれからもっともっと洗練させたいと思います。

その2人が色々活動を始めるきっかけだったんですか?
いや、活動をし始めたきっかけはクロガレイだね。20年くらい前のクロガレイの浜値は、その魚で生活できるくらいの値段がついていたんだけど、今じゃもう酷く安い単価になってしまってて。
昔はクロガレイはいくらくらいだったんですか?

大体、300円〜800円くらいの相場だったんだけど、今の標津町のクロガレイの浜値は5円〜80円。うちの親父が漁師やってた当時の4〜5月でも、300円/kgくらいの値がついていたから生計を立てられてたけど、今の価格で生活はできない。

その原因は食文化の変化ですか?
って言われるけど俺は違うと思うよ。漁連さんや大企業が大きなロットで扱ってる魚が先行してしまっているじゃん。それは単純にお金になるからだと思うんだけど、昔は食べてもらうきっかけを作ってくれている人たちもいっぱいいて、ちゃんと地域に根付いて地域を支えてくれた魚たちも流通に乗ってたはずなんだよね。
今では少しずつクロガレイを使って協力してくれる人たちも増えてきて、一般消費者に対してアプローチできるように頑張っています。


昔はクロガレイはどうやって食べられていたんですか?
クロガレイは刺身に向かない魚だから、煮付けとか焼き物で食べられていたよ。
ふるさと納税はされているんですか?
やってますよ。でも、最近は金儲けの手段として使われているふるさと納税のあり方について疑問があります。「自治体に溢れている素晴らしいものをもっと世に出して、地方創生をしていこう。」っていう本来の目的にフォーカスしているかどうか、一度見直すべきなんじゃないかと思っています。
今年から鮭とかいくらとかじゃなくて、自分たちが獲っている根魚(地先の魚)を中心にして、出品することで普段日の目に当たらないような魚も食べられる機会を作りたいなと思っています。

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お礼品発送予定時期:お申込みから1週間程度でお届け (お届け時間帯指定可)
潮目はいつからやっているんですか?
潮目は去年の8月からやっています。その前一年くらいはいろんな人に手伝ってもらってリノベーションをしていました。元々ゲストハウスをやりたいっていう意思はあったんだけど、何を理念にするかが不透明だったんだよね。
土屋さんっていう建築士の方の「50年後に今の紙幣の価値がなくなった時に人はどう生きるのか」というコンセプトのコミュニティに入らせてもらったんです。そのコミュニティでいろんな人と話をして、「繋がりをたくさん持って助け合えるような世の中を作りたい。」っていうゲストハウスをやる目的が明確になりました。

で、潮目を作ってみたらいろんな人が来てくれて、チーム波心会っていう若い子達のグループもできたし。本当にすごい子達ばっかりだよ。俺なんて足元にも及びません。
東京からきて漁師やるっていう根性あるひかる。現場に入りながら大学との橋繋ぎ役をしてくれるゆうとと、共生農法によって海だけでなく山にも向き合おうとしているなお、教育に特化してるあいり、魅せ方が上手なそら、金融に強いしほ、河川研究専門のとも。本当にかっこいい人たちが揃ってくれています。
潮目にはなぜ人が集まるんですか?

なんでだろうね。コンプライアンスという言葉に逃げてしまう今の日本が退屈だからじゃないかな。潮目には若い子達だけでなくていろんな層の人たちが集まってくれるんだけど、ここに来てくれる人たちはコンプライアンスという言葉を気にせず活動している人たちが多くて、すごく勇気づけられています。
「俺たちも全然この価値観で活動してもいいんだな」って思わせてくれています。標津ってやっぱり辺鄙で交通の便が悪く、そういった覚悟とか信念がない人たちは来ないから自分の中でも線引きになるし、とてもありがたいです。

道東に新しい風を吹き込む
北海道標津町は、開拓者や移住者など、外部からの影響を受けて大きく発展してきた歴史があります。
ゲストハウス潮目は、そんな標津町に新たな風を吹き込み、変化が起こる場所にしたい、という思いで作られました。
● 設備:キッチン、お風呂(シャワー)、洗濯機(洗剤は各自購入)、ドライヤー、Wifi、コンセント、暖房、シャンプーリンス、電子レンジ、電気ポット、冷蔵庫、駐車場有
● 宿泊料金:素泊まりのみ、1泊
夏場料金 ( 5/1 ~ 10/31 )
- 大人 5,000円
- 中高生 2,000円
- 小学生 1,000円
- 小学生未満無料
冬場料金 ( 11/1 ~ 4/30 )
- 大人 6,000円
- 中高生 2,000円
- 小学生 1,000円
- 小学生未満無料
※お部屋のタイプはドミトリーのみとなります。
林さんが大切にしている海と魚に対する向き合い方について教えてください。

心がけていることは1つで、お金先行にならないことかな。お金を稼ぐために海があるのではなくて、海があるから生活できていると思ってます。最初はそれを理解してくれる人も少なかったし、共感してくれる人もいなかった。海を守るというのは烏滸がましいけど、海が壊れたら俺らは生活できないし、海に携わるものとして「海と共に暮らす」ということは常に心がけてます。
林さんのビジョンはなんですか?
俺のビジョンは、俺が家族だと思っている波心会のみんなが笑って楽しく生きられればいいなって思う。早く息子に後は任せて、おじいちゃんになってもみんなでいろんなこと共有し合って、海に携わって生きられればいい。普通に楽しく生活していければいいかな。
そのビジョンを叶えるためにこれからどのような取り組みをしていきたいですか?

やることは今までと変わらない。こういう考え方ができるようになるまで支えてくれたたくさんの人たちに感謝して、海と魚とともに暮らす身として、海と魚を大切に。この捻じ曲がった業界を、単純で本質的なことがちゃんとできる業界にするための一つの黒い点となって活動していきたいです。
まとめ
今回は、北海道標津町で輝く波心会の林強徳さんの熱い想いを根掘り葉掘り取材させていただきました。林さんは今日も仲間たちと共に真っ直ぐに日々海に向き合い続けています。波心会には、他にも個性的で面白い仲間達がたくさんいますので、第2弾、第3弾はその人たちを取材していきたいと思います!
これからも日本全国津々浦々、漁師さんを訪ねてどういった生業をしているのかを調査し「浜の兄妹」で報告させて頂きます。本当に格好いい漁師さんが日本中にはいますので、その方たちがもっと輝けるように頑張っていきます。
波心会のHPはこちら
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